雪のいと高う降りたるを

雪のいと高う降りたるを、
例ならず御格子参りて、炭櫃に火おこして、物語などして集り候ふに、
少納言よ、香炉峰の雪、いかならむ」と、仰せらるれば、御格子上げ
させて、御簾を高く上げたれば、笑はせ給ふ。
人々も、「さることは知り、歌などにさへ歌へど、
思ひこそよらざりつれ。なほ、この宮の人には、さべきなめり」と言ふ。

香炉峰下 新たに山居を卜し草堂初めて成り 偶東壁に題す

日高く睡り足るも猶お起くるに慵(ものう)し

小閣に衾(ふすま)を重ねて寒さを怕(おそ)れず

遺愛寺の鐘は枕を欹(そばだ)てて聴き

香炉峰の雪は簾を撥(かか)げて看る

匡廬(きょうろ)は便ち是れを逃のがるるの地

司馬は仍(な)お老を送るの官たり

心泰く身寧きは是れ帰する処

故郷 何ぞ独り長安にのみ在らんや

香炉峰下新卜山居 草堂初成偶題東壁

日 高 睡 足 猶 慵 起

小 閣 重 衾 不 怕 寒

遺 愛 寺 鐘 欹 枕 聴

香 炉 峰 雪 撥 簾 看

匡 廬 便 是 逃 名 地

司 馬 仍 為 送 老 官

心 泰 身 寧 是 帰 処

故 郷 可 獨 在 長 安